上橋菜穂子著 偕成社(単行本・軽装版・電子書籍版)、新潮社(文庫版)
単行本 各巻1,650円(税込) 軽装版 各巻990円(税込)
電子書籍版 1巻658円,2巻617円,3巻700円 文庫版 1巻693円,2巻649円,3巻737円(すべて税込)
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2020年は東京オリンピックを開催して、世界中の人々を迎えようとしていた日本。コロナ禍という未曽有の事態が世界を襲うなんて、いったい誰が想像していただろう。
外国へ旅をするのが難しいこんな時代に、家に居ながら世界を眺め、思索を深めることができるのは、Google Earthも良いけれど、読書ではなかろうか。
『天と地の守り人』が含まれる「守り人シリーズ」は、1996年にシリーズ第1作である『精霊の守り人』が出版された。女用心棒バルサが皇子チャグムを守る冒険譚が描かれている1作目以降、バルサが主人公の『~の守り人』と、チャグムが成長していく『〜の旅人』の2つの物語が交錯しながら書き継がれ、この『天と地の守り人』で合流、完結する。物語の舞台が小さな皇国から周辺国へと広がっていき、最終作となる本作では、大国との戦禍に巻き込まれたバルサとチャグムの再会、奮闘、帰還が描かれている。出版されたのは2007年、2016年にはNHKでドラマ化されているので、このシリーズを、知っている、観たことがある、子供のころ読んで育ったという人も多いであろう。
すべてが人力や馬力であった産業革命以前の中央アジアあたりを想起させる国々を舞台に、現代の私たちが享受している便利さ、スマートフォンに代表されるようなデジタルツールが全くない世界で、自身と大切な人たちの身を必死に守り、戦い、生きる主人公たちの姿は、ファンタジーの世界であるのに、逆に「リアル」に感じられる。時折描かれる食事の場面は、目の前に湯気や香りが立ち上ってくるようで、ほっこりとさせられる。
著者の上橋菜穂子氏は立教大学で学び、博士課程でアボリジニ研究を修められた文化人類学者であり、研究者ならではの言語、宗教、食文化への深い洞察が散りばめられている。物語の世界から還って来た時、湧いてくるのは、しっかり食事を噛んで味わって生きて行こうという普遍的な気持ちだ。