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​​​​​​​新座キャンパスにおいて、春季人権週間プログラム講演会『スポーツ指導者として、どこまでが指導でどこからがハラスメントなのか』を開催しました。今回はコミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科の公開授業とのタイアップで行われました。
講師に日本女子体育大学・大学院教授の溝口紀子先生氏をお招きし、バルセロナ五輪銀メダリストでフランス五輪代表柔道チームコーチとしての国際的なご経験を持つ溝口氏より、指導者としての視点やスポーツ界の問題点についてのお話を伺いました。

日 時

2019年6月24日(月) 15:20-17:00(4時限)

会 場

立教大学 新座キャンパス 8号館地下 N8B1教室

講 師

溝口 紀子 氏
(スポーツ社会学者・柔道家/日本女子体育大学・大学院教授)
(1992年バルセロナ五輪52kg級銀メダリスト)

参 加 者

本学学生、教職員、一般
合計112名

講演内容

 本プログラムでは、「師弟愛とハラスメント」「月経ハラスメント」「武道ハラスメント」「満身創痍ハラスメント」の4つのハラスメントについて講演がされた。

 溝口氏は、1992年バルセロナ五輪52㎏級銀メダリストであり、選手の立場で2度、フランスナショナルチームのコーチという立場で1度、合計3度オリンピックに参加されている。そのため、日本の状況だけではなく、フランスの状況も踏まえた内容のご講演であり、特にスポーツにかかわる者には多くの示唆に富んだお話を伺うことができた。

 「師弟愛とハラスメント」では、体操協会で起きたパワハラの事例をあげ、その背景について詳細な説明がなされた。選手が勇気を持って声をあげた組織からのハラスメントの背景には、コーチによる体罰の問題も浮上したが、「コーチから暴力を受けたが、引き続き指導されたい。」という師弟関係からくる服従関係は、ドメスティック・バイオレンスと似た構造であるとのことであった。

 「月経ハラスメント」は、ジェンダー問題とハラスメントが混在した難しい問題である。例えば、男性教師が水泳授業見学の女子生徒に「生理何日目?」と声をかけた場合、それは人権やプライバシーへの配慮が欠ける事例であるとの説明がなされた。さらにスポーツ指導者としては、生徒や選手からの申告により身体の状態を把握し、重症化を避けるために、月経中は練習メニューを変える、休ませるなどの対応が必要である。一方で、過度の体重制限により摂食障害に苦しみ、万引きを繰り返した元オリンピック選手の例を挙げ、摂食障害とクレプトマニア(窃盗症)についての言及もあった。摂食障害と窃盗症は「非常に合併しやすい病気」であり、行動制御障害、自傷的行為、社会的信頼の喪失、スリルと罪悪感を繰り返すことから、低体重へと結びつく厳しい体重制限の問題性について取り上げられた。厳しい体重制限から、選手は無月経になることも少なくない。特に体操・新体操、フィギュアスケートなどの審美系競技や、陸上中長距離や自転車長距離などの持久系競技の選手に多くみられ、それを回避するためには、コーチは選手を管理し過ぎることなく、選手自身に「自制できる力」を身に着けさせることが大切であるという溝口氏の言葉が印象的であった。この無月経の負の連鎖として、「摂食障害」「貧血」「骨粗鬆症」「疲労骨折」「不妊症」「クレプトマニア(盗癖)」などの症状が挙げられた。また、スポーツをしている女子学生に対するアンケートでは、月経が辛いときに指導者に言えないと答えた学生が圧倒的に多く、男性の指導者には言いにくい、月経=サボりと思われる、辛さを理解してもらえないという月経困難症への周囲の理解が不十分である現状が浮き彫りとなった。指導者の月経中の対応(休ませる、練習内容の変更など)については、男女に対応の差がないと思っている生徒が半数以上であるという意外な回答も紹介された。また、溝口氏のフランスでのコーチ時代には、女性選手が「月経」であることを指導者に告げるときは“ハニャニャ”という隠語が使われていることや、練習内容変更や練習を休むことが認められていたことが報告された。今後日本において、スポーツの場面だけでなく、日常的にも男女間の月経に対するコミュニケーションの在り方を社会全体で見直す時であると示唆した。

 「武道ハラスメン​ト」については、「修行」という名の「ハラスメント」がみられる、との指摘がなされた。選手には、少なからず暴力指導を受けた経験があり、金メダリストも体罰を容認している、との危惧が語られた。選手は、それらを「愛があり、相手を思っている叱咤激励は体罰ではない。」「体罰を受けたことで強くなった。」と受け止めている現状について言及された。また、指導者による生徒への絞め落しが通過儀礼化している柔道文化において、故意の「絞め落とし」による生徒への指導に対し、「体でわからせるのは指導としては行き過ぎで違法である。」と判断した判例もあることが紹介された。

 さらに、スポーツとは別の近年問題となっている親から子への体罰に関して、児童虐待撲滅に向けた法改正や民法の「懲戒権」についても触れ、会場では、フランスの体罰撲滅のCM(http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=ZJLTh0hb-JM)が流された。そのCMは、母から娘への日常の体罰が映し出され、それを見た祖母が自分の娘である母を抱きしめるという内容で、暴力は連鎖すること、暴力は身体と精神を支配・服従していくこと、暴力は思考停止することを指摘した。この映像について溝口氏がフロアの学生へ聞き取りをしたが、会場にいた学生達にもCMの意図することが受け止められていた。

 「満身創痍ハラスメント」では、ある駅伝の大会で起きた四つん這いでのたすき繋ぎの事例が放映された。溝口氏からは、「怪我・発病にも関わらず、続行することは選手への虐待行為ではないか」との発言があった。コンタクトスポーツでは、過去に死亡事故が多いため、プレイヤーウェルフェア(選手保護)の文化があるが、陸上などの競技では、満身創痍の美学と感動があり、それらが大変危険なものであること、また、本件はテレビで生中継されていたため、放映権の中で主催者側が制止できなかった事情も考えられる等の説明がなされた。チャンピオンになるために無理をするのではなく、あえて棄権することでリスクを回避するという、賢明な判断ができるように子供たちに指導していくことの重要性と、自分が今どれくらい死のリスクに置かれているか認知することの必要性、その指標(危険度)の作成が必要であることが伝えられた。

 まとめとして、スポーツ場面でのパワーハラスメントは、コーチングに自信がないから暴力を振るうため引き起こされるのであるなど、ご自身の経験である指導者の立場からの提言もなされ、東京五輪は「非暴力化への過程」「社会の思想の転換期」となるべきであり、「スポーツ基本法のスポーツ権」を見つめ直すよい機会である、との提案がなされた。

来 場 者 の 声

・やる気、自制スイッチのON・OFFは選手自身に任せることが、指導者の目線からは一番大切なのではないか。一方で背中を押すための喝は必要。ハラスメントの線引きが難しい。

・​月経ハラスメントの話を聞いて、男でも指導者としてきちんと女性の体のことを理解していなければいけないと思った。言いにくい環境をどう伝えやすくするかを考えなければいけない。無月経は命にかかわるのでその対応はしっかり絶対に忘れてはいけないと思った。

・師弟愛のハラスメント等はとても複雑で怖い。そのような社会のままだと、今後けがや死亡事件などが増えてきて競技人口の減少などにもつながりかねないので、選手を第一に考えた社会になっていく必要があると改めて思った。

・厳しい指導で選手を傷つけることはあってはならないが、その選手が指導者の気持ちを理解し、心から必要としているなら体罰にはならないのではないか。客観的な評価だけで体罰として認められ、その指導者が現場から排除されることが本当にその選手が望むのか。選手の声を無視した処分を下すことに疑問がある。

・リスクを回避しチャンピオンになるために棄権することは弱さでも逃げでもなく懸命な判断だという事を理解できた。この事実を知ったことは私の中の常識を覆すものだったので話が聞けて良かった。暴力を受けた時に体の傷は治っても心の傷はずっと治らない。いくら愛のある指導でもうっかりだとしても暴力をふるってはいけないと思う。

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溝口 紀子氏

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講演会場の様子

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