過労死弁護団の弁護士として、多くの「過労死」「過労自死」の事件を扱ってこられた玉木氏から、「過労死」とは何か?「過労死の実態」と「防止対策」をテーマに労働条件に関する法的基礎知識を学ぶ機会となった。「過労死」とは、過酷な長時間労働や労働環境から、脳血管疾患・心臓疾患を発症し、死に至るケースと、適応障害等からうつ病などを発症し、普段の生活や仕事が出来なくなる状態も含む。厚生労働省の「平成28年度過労死等防止対策白書」によると、脳・心臓疾患に係る労災補償請求件数は、ここ10年間で約700-800件と平均的に推移しているが、一方で、精神疾患による請求件数は、この15年間で約10倍に急増しており、その約5割超が若い人たちである。 玉木氏が原告側代理人を務め、2015年12月に和解が成立した「ワタミ過労自殺訴訟」。これは、新入社員として働き始めてすぐに、長時間労働、不慣れな業務の遂行、さらには休日であるはずの日も満足に休息が取れない過酷な労働環境から、適応障害を発症し、その約1カ月後に自殺するという痛ましい事件である。過労死は本人にとっても、家族にとっても計りしれない苦痛であり、失われた命は二度と戻らない。新入社員で精神疾患を発症する人のほとんどは、働き始めて2,3カ月が典型的なパターンであると玉木氏はいう。その要因については、本来その仕事に向いていない、無理だったのではないかと言われがちだがそうではない。優秀で責任感が強く、完璧を求め、我慢強い、それこそが精神疾患になりうる性格であると主張する。「過労死」が、脳・心疾患から精神疾患へ移行している現状は、大きな社会問題であると指摘した。 そこで玉木氏から、これからみなさんが健康で充実した社会人生活を送れるように、ぜひ知っておいてほしい、法的基礎知識について説明があった。「労働基準法(労基法)」では、法定労働時間を1日8時間以内、1週間40時間と定めている。これは強行法規であり、違反すると刑事罰となる。雇い主(会社等)側は、繁忙期等の理由で、時間外労働をお願いするには、労働基準法第36条「時間外労働・休日労働に関する協定」いわゆる36(サブロク)協定を労使間で協議のうえ締結し、労働基準監督署に届けることによって、一定の時間外労働が認められる。自身の勤務状況がそれに違反をしていると感じたときには、1人で悩まずに、早めに労働組合や労働基準監督署などに相談に行くことが望ましいと玉木氏は伝えた。 その後、「過労死を考える家族の会」の木谷氏より、ワークルールを学ぶ意義について、自身の体験を踏まえてお話しいただいた。木谷氏は、当時、日本がIT社会の実現を目指す戦略を掲げ、アナログ放送から地デジ放送へと転換する大きな変革期に、大手電機メーカーの子会社にSEとして入社し、地デジプロジェクト関係部署へ配属された。担当した省庁向けの電子申請システム開発は、いくども変更が指示され、新たなプログラム開発とテスト業務の繰り返しで、過重な労働を強いられた。またチームのリーダーとしての管理責務も課されていた。ある日突然、朝起きることができなくなり、睡眠障害とうつ病を発症し、休職と復職をくりかえしたが、最終的には自己都合退職の形で会社を去ることになった。同期入社の同僚も、重度のうつ病を発症し、自らの命を絶つこととなった。 本人の経験から、うつ病になると、正常な判断ができなくなり、「今この瞬間から逃げ出したい、死んでしまえば会社にいかなくてすむ」と、突発的に死を選ぶ瞬間が襲ってくるという。 「自分を大切にしてほしい!仕事と命を天秤にかけてはいけない!」1人で悩まずに近くの人でもいいから、相談をしてほしいと伝えた。 玉木氏も、精神疾患(うつ病)は、“こころのかぜ”ではない、重大な病気であり、治りにくく、誰しもがかかる可能性がある。仕事は、人生で幸せになるための手段であり、身体とこころに異常を感じたら、すぐに仕事から離れる勇気を持ってほしい、そして自分のワークライフバランスを大切にしてほしい。今後も、過労死が二度と起こらない社会にするために強く働きかけていくと訴えた。 アンケートには、「これから就職活動をするにあたり、自ら考えるきっかけとなった。」「被害者自身の話が聞けて、とても参考になったと同時に企業への憤りを感じた。」「メンタルヘルスと労働法の事を知る重要性を感じた。」といった多くの感想がよせられた。 |