今回の人権週間講演会では、これまでのハラスメントにズームを絞るものから、少しズームアウトして学生の生き方に直結するジェンダーの観点から、働き方について考える内容となりました。ちょうど4年生が今後のキャリアデザインを真剣に考え、3年生が就職活動に動き始めようとする時期にあたり、会場に集まった聴衆だけではなく、オンラインで視聴した方も多かったようです。 講師の瀬地山氏とは、氏が大学受験後・入学前に一人旅で愛媛県の火振島で幕営していた脇に、大学院修士課程を終えて旅をしていた私が、たまたまテントを張ったという縁があります。先に島に来ていた氏の案内で孤島の診療所を訪ね、韓国人の医師から僻地医療について話をうかがいました。そうした縁で、氏が社会学の領域で活躍されている様子を、それとなく見てきたのですが、社会の大勢で見落とされがちな立場から、社会を見るという姿勢で一貫しているように思われました。 奈良県出身の氏は、関西人らしく「笑い」を取りながら、講演を展開されます。「笑い」を誘う話は、聴き手の記憶に刻まれる、まさに「笑い」の効果というものでしょう。冒頭の問いかけ、「ジャンボ宝くじを必ず当てる方法があります、みなさんは2億の当たりくじを持っています」から、講演は始まりました。その「方法」は、講演の途中で明らかになっていきます。 「大学時代のカレと結婚ですか?」という問いかけから、学生の関心を「結婚」に向けさせ、続いて専業主婦に話題が展開。画面には数値を表示させずに、「2015年国勢調査 夫就業世帯の妻の就業率」が示されました。たとえば山形県と東京都・大阪府、就業機会の多い都市部の方が就業率が高い(専業主婦率が低い)と想像したのですが、数値が示されるとその予測は外れ、山形県75.1、東京都61.5、大阪府58.3となっています。つまり夫の所得が上がると妻は働かなくなるという傾向を、そこから読み取ることができるというのです。家事関連時間(共働き世帯)は男性の週平均1日46分に対して女性4時間54分、育児時間(片稼ぎ・共稼ぎ)は男性の49分に対して女性は3時間45分(社会生活基本調査、2016)。 こうした性的役割分担の固定観念は、しばしばCMにしみ出してしまう。たとえば、ある食品メーカーのCMでは、女性は朝起きて子どもたちの朝食とキャラ弁の準備に慌ただしいなかで、背後で男性はパソコンをいじっているだけ。女性は専業主婦かと思ったら、仕事をしたあと保育所に駆け込み、スーパーで買い物……。瀬地山氏がメーカーのお客さま相談室にメールで抗議をすると、「父親が子供の着替えを手伝う場面などを入れて制作しました」との回答。家事・育児は「手伝う」ものではなく、「共有する、シェアするもの」だと、氏は強調します。なお、これがどの企業のCMかは、氏の著書『炎上CMでよみとくジェンダー論』(光文社新書、2020年)で。 いま求められているのは、男性のワークライフバランスです。その点で今の育休、よくできているとのこと。6ヶ月間は給与の67%、それ以後は50%、夫婦交替で6ヶ月ずつ取るとずっとそれぞれ67%となります。瀬地山氏も有言実行、子育てに全面的に関わり、さらに現在では東京大学内の保育所の経営にも携わっているとのこと。 男子も必見なのが『就職四季報女子版』。女性の既婚率や勤続年数、男女均等支援と両立支援などの情報が記載され、一つの目安として「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定したことを示す「くるみんマーク」の有無を確認することができます。 さて冒頭の発言、日本では女性が出産を機に離職し、子育てが一段落したあとにパートなどで働くことが多く、女性の労働力率がM字を描くことが知られています。パートの収入は少ないため、いったん離職すると生涯所得は激減してしまいます。そこで、男女で家事・育児を共同して離職しなければ、その世帯の所得は2億円は増えるとのこと。就職を前にした大学生は、みな2億の当たりくじを持っていることになるのです。 (文学部 上田 信 教授)
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