リボン コマンドをスキップする
メイン コンテンツにスキップ

2022年6月16日(木)SPIRITのInternet Explorerサポート終了について

2022年6月16日にMicrosoft社によるInternet Explorerのサポートが終了しました。
それに伴い、SPIRITにおけるInternet Explorerのサポートも終了します。
これまでInternet Explorerを用いてSPIRITを閲覧されていた方は、Google Chrome、Microsoft Edge、Firefox等他のブラウザをご利用ください。

ナビゲーション リンクのスキップexperiences_01

2年次に「RSL-ローカル(陸前高田)」を受講しており、自ら問いを立てて社会や地域について学びを深める実践系科目の面白さを実感していた。履修に先立ったのは、「なにが人を苦しめるのか」という単純な疑問があったからだ。

2011年の東日本大震災、当時大きな揺れを経験したものの、私にとって東北の被害は非現実的で、ただ単に「どこか遠くで知らない人がたくさん死んだ」だけだった。いつしか、放射能汚染を気にして福島産の野菜を買わなかったり、原発反対の張り紙やデモを見かけたりするのが当たり前になっていた。

しかし、岩手県陸前高田市を訪れて、震災発生から6年が経過してもなお、被災者と呼ばれる人々が苦しみ続けていると身を以て知ることになる。街の繁華街があった一帯は、山から削り出された土砂で嵩上げが行われている最中で、復興はおろか復旧すらままならない状況であった。防潮堤の建設も、土地所有権を巡って難航している。

一連の学習の中で特に印象的だったのは、罹災して仮設住宅で生活している高齢者の方から聴いた話だ。そのほとんどが生まれ育った家、土地を無くした方達だったが、中には目の前で家族を失った方もいた。

彼らの強張った表情と声色に「震災はまだ終わっていなかったのだ」と実感し、同時に、地域の防災機能を高める必要性と、それに必要な要素は何かを自分で考え始めるようになった。様々な語りを聴き続ける中で、自分にとって関係がない、他人事だと考えていた事件や事故が自分事となって現実味を増した。また、被害の規模や質、被害を受けた人々は様々だが、その多くに共通して地域が抱える少子高齢化や行政や自治体の経済状況、国からの保障など、複合的な課題が被害を複雑化、同時に深刻化させていることに少しずつ気づくようになっていった。

【写真1】「RSL-ローカル(陸前高田)」(2017年度)現地活動の様子。右側に見えるのが嵩上げされた場所。現地の方からは、津波対策のため、この盛土の上に建物が立つのだと説明を受けた。

同じ年の秋には、1954年にアメリカの水爆実験により被ばくしたことで知られている第五福竜丸に関するフィールドワークを行い、当時の船員だった大石又七さんにインタビューを行った。大石さんは、自身の経験を著述し、80歳を過ぎた現在でも各地で語り部として活動している。「何があなたを衝き動かすのか」という問いに対する、「死んでいった仲間の尊厳を取り戻す為、怒りが私を行動させている」との答えに圧倒された。50年以上前の事件が解決していない現在において、発生から 10年にも満たない震災の復興が完遂するはずはない。自分が考えるべきは、「将来発生し得る被害をいかに抑えるか」ではないか。この想いを抱いた 3年次の秋、RSLセンターが新しい科目を開設した。それが、私が生まれ育った池袋をフィールドにした「RSL-コミュニティ(池袋)」(以下、「RSL池袋」とする)だった。

「RSL池袋」では、豊島区池袋における多文化共生の地域づくりについて、「防災」、「子育て・教育」、「芸術文化」の3つのテーマで調査し、コミュニティ間の連携を促進させるプロジェクトを考案するのが授業の目標となっている。私は地域の防災に対する関心から、防災班でリーダーを務め、フィールドワーク(主にインタビュー調査)とプロジェクト作成を行った。

調査に先立ち、事前学習として豊島区に居住する外国人の当契約が行っている地域創生の取り組みについて学び、結果を踏まえてプロジェクト考案をスムーズに行える様、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究員の方から、現場目線の指導を受けた。私は今まで一生活者としてのミクロの視点から池袋を見ていたため、地域全体を数量データで分析したことがなかった。しかし、マクロの視点で地域を見ると、「確かにこの地域には外国人の住宅地が密集していて、留学生を多く見かける」ことなど、自分が当たり前に目にしてきた光景を情報(数量データ)として捉えることができた。

事前学習で得た知見を元に、私のグループでは、豊島区で生活する外国人居住者が多いことから、「外国人が災害弱者となる可能性が高いのではないか」と仮説を設け、その解決策を考案することになった。東日本大震災の被災地での問題の一つとして、言語の壁はもちろん、災害に関する知識不足、行政や自治組織が発信している防災に関する情報が外国人に適切に伝わらないことが取り上げられていたからだ。また、東北での学習で重要性を感じた「自助・共助・公助」の概念が、東京都市部(池袋地域)において、どのように機能しているかを念頭に、豊島区役所、町内会、中華料理店、立教大学にインタビューを行った。

以下に、インタビューからみえてきたことを総括する。

  1. 「公助」の担い手となる行政による政策は、充実した防災のハード面での機能を有している反面、外国人向けにはマニュアルの言語対応等にとどまっていた。
  2. 「共助」の担い手となる町会は防災設備の投資に注力しており、地域ごとの防災訓練を実施していたが、閉鎖的なコミュニティの特性ゆえ、外国人の参加者はほぼいない。池袋北口の中華料理店では、東日本大震災時、情報を入手できない外国人店員達の多くが自国に帰ろうとしたという話を伺った。

行政や公的機関による「公助」の限界は、阪神淡路大震災の経験からも痛切に語られることが多い。大規模災害が発生した際、消防や救急による活動は道路や建造物の倒壊、人員不足などにより制限される。罹災した諸個人は、自らの判断、もしくは所属する企業や学校の指示のもと安全を確保する必要があり、「自助」と「共助」に期待せざるを得ない。災害時に情報を入手できなかったり、近隣との関係構築ができなかったりという理由で、中華料理店の従業員は「自助」と「共助」を適切に行えていなかったと考えられる。以上の結果から、行政、地域コミュニティ、外国人コミュニティの連携不足により、外国人が災害弱者となる可能性があると私たちは結論づけた。

そこで私たちが考案したのが「エスニック炊き出し」プロジェクトだった。西池袋公園などで食文化を披露するイベントを立教大学と立教に在学する立教生も関わりながら開催し、池袋周辺の多国籍料理店に、炊き出しを提供してもらうことにより、日本の防災習慣についての理解と近隣関係の構築を促すことで、災害時にも機能するコミュニティの基盤を作れるのではないかと考えたのである。あえて、炊き出しと銘打つ理由は、調査を進める中で炊き出しについて留学生から聞いた、「緊急時だというのに食事をもらうために長い列を作って待っているなんて、日本人はおかしな民族だ。私の国では暴動が起きるだろう。」という話が印象的だったからだ。

現在では、緊急時用のアルファ米やレトルト食品が数多く販売されており、一般人も気軽に入手できる環境になっているだけでなく、味もより良いものに改良されつつある。また、池袋周辺にも防災公園が存在し、災害時に「かまど」として使用できるベンチや防災トイレが設置されている。
以上のように災害時に使用する食材を利用した炊き出しや実際の公園施設を使用する案他、多くのリソースを用いることで日本人の民族的・文化的特徴と、災害時の対応を具体的にイメージするとともに、それを様々な国籍の料理人たちに拵えてもらうことで文化交流を図り、縦軸の情報理解と横軸の関係構築を実現するのがねらいだった。

「RSL池袋」が開講した2018年は、立教大学が池袋に移転して100周年を迎える年でもあった。大学の地域貢献は学生にとってはあまり馴染みのない活動かもしれない。しかし、公共空間としての機能を持つ大学は、地域の防災力の強化のため、つまり、「共助」を行うための第1ステップとして近隣住民へ働きかけることができると考えている。地域交流の頻度を向上させることができれば、防災力の向上のみならず、新たな文化活動の創出や近隣トラブルの縮減といった効果も期待できる。

履修終了後も企画のブラッシュアップを行い、NPO法人ゼファー池袋まちづくりの会合と、日本シティズンシップ教育フォーラムにて活動報告の機会をいただいた。資料を1枚にまとめ 5分で簡潔に発表する必要があり、荒削りなアイディアを、整合性が取れる様に整理する難しさとやりがいを感じた。

【写真2】「RSL-コミュニティ(池袋)」を履修後、NPO法人ゼファー池袋まちづくりの総会で池袋地域の方に向けて自分たちの調査結果を発表した。(2019年2月)

3年次の春季休暇期間には「RSL-ローカル(南魚沼)」(以下、「RSL南魚沼」)に参加した。科目の目標とされている過疎化が進行する豪雪地帯である栃窪地域の持続可能性を考えるとともに、防災の観点からも学び考えたいと思ったからである。栃窪は全世帯数約60の集落(当時)であり、災害発生時には高い割合で「自助」と「共助」が行われる。しかし、居住する人々の多くは高齢者であり、個人的にはその実施可能性は低いと考えている。

避難場所には集落の中心に位置する小学校が指定されているが、集落が街の中心部から離れた山あいにあることから傾斜が多く、自動車なしでの移動は困難である。また、積雪量も多く、建物の1階部分が雪に埋もれてしまうこともあり、厳冬期の避難の実施は困難を極めるだろうと推測した。
また、母親が新潟出身であり魚沼産の米を毎日食べていた自分にとって、有機栽培を行う農家の実態を、身を以て知り得た良い機会にもなった。

RSL実践系科目はコミュニティからグローバルへ、問題意識を広げることができるように設計されている。しかし、私が受講したのはローカルとコミュニティのみで、逆に自分の問題意識を内部へ深めていく機会になっていたと思う。「RSL南魚沼」に参加することで、初めて、自分と縁のある地域について知らないことが多いと気がついたと同時に、防災について陸前高田-池袋-南魚沼に共通した問題を見ることができた。

RSLセンターからは、定期的に他大学や外部企業の企画の情報が提供されており、特に防災と関連したプログラムに進んで参加した。岩手大学主催のヤングリーダーズ国際研修では、陸前高田に再訪し、中国や韓国、モンゴル、インドネシアといった様々なバックグラウンドを持つ留学生たちと英語でディスカッションし、日本人と外国人の学生が東日本大震災について効果的に学べるプログラムを考案した。ここでの留学生たちとの炊き出し体験は、のちの池袋での提案に大いに役に立った。また、テレビ番組にも出演する機会をいただき、NHKの「未来塾」の撮影の際に、陸前高田同様、津波で深刻な被害を受けた釜石市吉里に訪れた。取材で話を伺ったのはNPOで薪をつくっている方だった。彼は家族とともに避難したが、地域の復興のために薪を作り続けている。彼の語りには非常に心動かされるものがあり、その後も足を運び、薪割りを手伝い震災講話を聞きにいった。

4年次には、2019年度の「RSL池袋」に SAとして参加し、裏方として受講生のインタビューへの同行、考察のアドバイスを行うことになる。私個人も受講生のインタビュー先の紹介も行い、池袋で馴染みのある人を学生に紹介でき嬉しく思う。去年に比べて受講生も増え、インタビュー先もブラッシュアップされ選択肢が増えたことで、多くの受講生が地域課題をより鮮明に捉えることができていたのではないかと感じる。

【写真3】RSL-コミュニティ(池袋)のSAを担当する。今年度の学生に昨年度自分が学んだこと等を伝えながら一緒に考える。

当面の目標は一人前の社会人になることと、トレイルランニングで世界レベルのアスリートになることだ。私は、RSLの実践系科目はもちろん、日常生活においても主体的かつ能動的であり続けることを意識してきたし、これからも志向は変わらないはずだ。

サービス・ラーニングの本質は、奉仕と学びにあるならば、社会に出てからが本当のサービス・ラーニングではないか。3つの RSL実践系科目を通じて自分と社会との距離感や、お互いにどうあるべきかを考えさせられ、小文字の政治について学ぶことができた。学生の間は学ばせてもらう機会の方が圧倒的に多かったが、社会人として会社で働くことで、顧客へ、会社へ、家族へ、社会へ奉仕する機会がどんどん増えていく。

学生生活における学びは、全てが貴重で価値のあるものだったと自覚している。その中でも、RSL実践系科目の学びは自分の知情意を刺激してくれた。防災について3年間学んだことを振り返って見ると、学ぶことの楽しさは、積極的かつ継続的に行うことで真価を発揮するのではないかと考えるようになった。大学、そして学習に携わった全ての方に、その環境を提供していただけたことを感謝したい。

社会学部現代文化学科
(2018年度履修、2019年度SA)