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2022年6月16日(木)SPIRITのInternet Explorerサポート終了について

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私は「RSL-コミュニティ(埼玉)」を受講する前から「NPO法人街のひろば」という学習支援団体でのボランティアをしていた。私の地元にはいくつかの学習支援団体があり、大学生になる前からその存在は知っていた。高校卒業と同時にボランティアとして参加し始め、現在も週1回のペースで活動している。「街のひろば」では主に生活保護世帯やひとり親家庭の小中学生を対象に、大学生ボランティアが中心となって勉強を教えている。
そもそも私が学習支援のボランティアに興味を持ち始めたのは、「自分とは違う境遇」の同世代の子がたくさんいると母から聞いて衝撃を受けたからだ。例えば、勉強を頑張っていて学校でもトップレベルなのに、アルバイトで稼いだお金は親が全て使ってしまい学費も払えないという子など…。身近で起こっている事実なのに、自分とはあまりにもかけ離れた話で信じられなかった。

そういう社会であってはならないし、楽しくない人生、本当に頼れる人がいないような生活を味わう子が減ってほしいという想いから、何か自分にできることはないかと中学生の頃から考えていた。もちろん貧困をなくすような政策や活動ができればいいが、今の自分の力では難しいので、まずは自分が現場に入り込むことで感じ、学びたいと思った。幸い私が住んでいる埼玉ではそのような子どもをサポートする活動が盛んで、近くでボランティアできる団体がいくつかあることもわかった。その中で、私がボランティア参加をきめたのが「街のひろば」だった。

「RSL-コミュニティ(埼玉)」を受講した最大の理由は、授業での学びを「街のひろば」でのボランティアに活かせるのではないかと思ったからだ。「街のひろば」では、月1回の学生スタッフ会議によって決まったことがすぐに実践される。私たち学生が出す意見次第で運営が良くも悪くもなると感じ、他の団体の良い部分は取り入れていきたいという気持ちがあった。「RSL-コミュニティ(埼玉)」では「アスポート学習支援(一般社団法人彩の国子ども・若者支援ネットワーク)」での学習支援活動が組み込まれている。1回の教室に子ども5人、スタッフ5人程度の小さい規模でやっている「街のひろば」に対して、埼玉県各地に教室を持ち、ネットワークがあるアスポート。勉強を教えるという点では同じだが、規模、方針、システムは異なっているため、学ぶべき点は多いのではないかと興味を持った。

受講を決めたもう一つの理由は、単純に実践型の授業が好きだからだ。講義の授業だと「テストのために暗記しよう」とか「レポートにまとめればいいや」と、得た知識を活かしきれないまま終わってしまうことが大半だ。自分で体験して感じ、そのことに対して自ら興味を持ち、深めていくのが私には合っていた。

埼玉県各地にあるアスポートのいろいろな教室を見てみたいという思いから、私は3教室で活動を行った。やはり教室によって生徒の人数や教室の雰囲気が違い、それぞれにカラーがあった。特に印 象的だったのは川口の教室だ。実習に行く前から、生活保護世帯が多い市であることは聞いていた。実際に行ってみるとボランティアの人数が足りない状況だった。川口市には複数のアスポートの教室があるにも関わらず、教室に来る子どもが多いことに驚いた。

そんな状況の中、川口の教室では「食育」にも取り組んでいる。炊いたご飯にレトルトのものをかけたり、いただいたお菓子を食べたりと簡易的なものだったが、食事をするからこそのメリットがあることがわかった。食事をするときはみんなで1つの大きなテーブルを囲むように座る。お互いの顔を見ながら、勉強のときには話さなかったことも顔を見ながらみんなで話せる環境がよかった。

7回目のボランティアは新座の教室に伺った。その日私が担当したのは中学3年生の女の子だった。外国籍の親を持つイスラム教徒の子で、スカーフのようなもので髪を覆っていた。その日の学習では、小学2年生の漢字のプリントをやった。中学3年生で公立高校の受験を考えているとのことで、まずは基本的な漢字を読めるようにする練習だった。書いては覚え、意味を聞いては覚え…を繰り返していた。どんどんと進めていき、あっという間にプリントを終わらせていた。「すごいね!たくさん進めたから少し休憩しない?」というと、「全然できないから…もっと頑張る!」と笑顔で、でもちょっと不安そうに言っているのが印象的だった。教室が終わってからも夜まで勉強すると言っていた。毎日そんな生活をしているそうだ。

その日の学習を終えたとき、「○○ちゃんのことたくさん褒めてくれてありがとうございました。」と支援員さんに言われた。自分ではそこまで意識していなかったので少し驚いたことを覚えている。支援員さんに話を聞くと、こんなに頑張っている子が学校で褒められず、認められる機会も少ないという。だからここではたくさん褒めてあげたいと言っていた。

このとき私は「たくさん褒めてくれてありがとうございました。」と言ってもらえたのが嬉しかった。ボランティアを始めて間もない頃は「どうやったら上手く勉強を教えられるだろう」と気を張り、そのことばかりに囚われていた。子どもが一生懸命取り組んでできたところも、なかなか褒められずにいた。しかし、学習支援のボランティアを継続してきて見えてきたのは、子どもたちは完璧に勉強を教えてくれる大学生を求めているのではなく、「自分に寄り添ってくれる」人を求めているということだ。答えや解き方がわからない問題があったら「私もわからない…なんだろうね…」といって一緒に正解を考える。できたところは褒める。以前は「この答えがわからないと子どもたちにバカにされてしまうかもしれない」と恐れ、わからない問題もなんとなく教えていた。でもわからないことをさらけ出すと子どもも安心してくれて、心を開いてくれることをアスポートでの学習支援活動も含め、自分が学習支援活動を継続してきたことで気付くことができた。「RSL-コミュニティ(埼玉)」を受講したきっかけはアスポートでのボランティア経験を今後に活かしたいというものだったが、アスポートでの学習支援活動でそれまで継続してきた成果が思いがけず現れたのが嬉しかった。

それと同時に、こんなに頑張っている子がいるのになかなか認められない、力を発揮できるような環境が学校にはないという事実に驚いた。それでもモチベーションを下げずに、高校合格の目標に向かってポジティブに突き進んでいる彼女を支えるアスポートがあってよかったと感じた。人数が多く、一人ひとりを見るのが難しい学校や成績で判断してしまう塾では補えない、学習教室ならではの良さを肌で感じ、なくてはならない場であると思った。そして私もその場をつくる一人として関われたのが嬉しかった。

「RSL-コミュニティ(埼玉)」の授業の後半では、アスポートでの学習支援活動をして感じたことを グループで共有しながら、今後アスポートにあったらいいと思うシステムや企画を発表することになった。この最終プレゼンにはアスポートのスタッフの方にも来ていただき、フィードバックをいただいている。私たちのグループは「体験学習の拡充」をテーマに、勉強以外の体験学習の取り組みを提案した。

私は「体験学習」の中でも『学生サークル・ダンス』に焦点を当て、ワークショップの企画を提案した。ダンスの企画を提案した理由はいくつかあるが、一番は自分自身が小さいときから習っていてダンスをすることが好きだからだ。そして私はダンスによってたくさんの人とつながってきた経験がある。人とのつながりの素晴らしさを感じてほしい、純粋に身体で表現する楽しさを知ってほしいという想いから、いつか子どもたち向けのダンスワークショップをやってみたいと思っていた。もう一つ決め手となったのがボランティアのときに出会った中学2年生の女の子の言葉だ。ダンスをやっているという話をしていたときに「ダンスを習いたいけど、遠いしお金かかるからできない…」と話してくれた。もし学習支援教室で子どもたち向けのワークショップができたらきっと楽しんでくれるだろうなと思い、提案を決めた。

体験学習の提案の中には、プロの講師を外部から呼ぶというものもあったが、私は学生サークルと連携することを提案した。費用の面で負担が少ないことが大きなメリットとしてあるが、その他にも講師をするサークルの学生にいろんな背景を持つ子どもがいるという現状を知ってもらえる、子どもにとっては年の近い大学生と関わる機会をつくれるなどの利点があると思ったからだ。

私が具体案として提示したのは、「映像×ダンス」のワークショップだ。プロジェクターを使って壁に映像を映し、映像と曲に合わせてダンサーが踊るというものだ。そのような活動をしている先輩が身近におり、2人の人柄にも魅力を感じていたので、例に挙げて発表した。

授業が終わってすぐ、授業を担当している田中聡一郎先生から「最終プレゼンのときに発表した内容が実現できそうだし、ぜひやってほしい」とメールが届いたことがきっかけでこの企画が実現することが決まった。もともと学習支援のボランティアを始めたときから実現させたいと思っていた「ダンスワークショップ」。すぐに「ぜひやらせてください!」と返信した。

依頼したのはサークルの4年生で、1人はダンサーの方。もう1人は映像制作の方。卒業してもそれぞれのアーティスト活動を続けていく方たちだ。2人はチームを組んでおり、「ダンス×映像」の作品を手掛けている。実績を上げていることはもちろん、私が信頼している先輩方でもあったのですぐに声をかけた。快く引き受けてくださり、2019年6月に開催することが決まった。

開催するにあたり、どのような子どもたちがいて、どのようなワークショップにしてほしいのかを2人の先輩方に伝えた。今回は中学生ではなく、小学生に向けてのワークショップになったため、話合った結果、子どもの集中力も考えて1時間のワークショップを2回(2日間)やることになった。内容はゲーム感覚で身体を動かせるものに決まった。ワークショップの詳しい内容は先輩方にお任せし、私は教室の様子を知ることに徹することにした。

ボランティアとして何度か参加していた中学生の部は、教室がどんな様子か把握していたが、小学生が対象のジュニアアスポートの教室の様子は全く知らない状況だった。そこで、ワークショップ開催の前の週に実際に学習教室に出向くことにした。ジュニアアスポートでは、中学生の部との違いが多く見られた。例えば、小学生でも集中力が切れないように工夫された全体のスケジュールである。勉強タイムが2回、体験活動の時間、歌の時間、ご飯というように学童保育の活動のような内容で充実した運営をしている。毎回「体験活動の時間」が組み込まれているのがいいなと思った。見学したときには、ワークショップで映像を映すにあたって必要な機材や、映像を教室のどこに映すのか等も確認した。単純に「見に行かないと不安だな」という気持ちで急遽事前に見学することを決めたが、行ってみると子どもたちの雰囲気やニーズも知れて、ちょっぴり仲良くもなれて、あのとき行って良かったと感じている。

ワークショップ当日、先輩方が用意してくださったワークショップの内容、映像、振付に驚いた。曲のリズムに合わせて出てくる映像と同じタイミングで手や足を動かす音ゲームのパート、振付を踊るパートで1曲を完成させるというものだ。小さい子でも、ダンスをやったことがない子でも楽しめる内容だった。
1回目のワークショップには5人の子どもとアスポートの方、見学に来た先生方など、たくさんの人が参加してくれた。子どもたちはすぐにふざけてしまったりする面もあったが、とても楽しそうに身体を動かしていた。

1週間後に開催した、2回目のワークショップでは、「1回目は来られなかったけれど、どうしてもワークショップに参加したくて学習教室に来た」という2人の子も加わった。先輩方も映像、振付ともに 1回目のワークショップよりも難易度の高いものを用意してくれた。1回目のときよりも子どもたちとの距離も近くなり、帰り際には「また来る?」と聞いてくる子もいた。

このワークショップの感想を聞かれたら、純粋に「楽しかった」と答える。子どもたちがきらきらした目で「楽しかった!」と言っているのを見て、私も嬉しくなった。アスポートの方にも「ぜひまた来てください」と声をかけていただいた。先輩方にも楽しんでいただけたようだった。このワークショップは私一人の力ではできなかったことだからこそ、周りの方に喜んでもらえたことが嬉しかった。目標にしていたワークショップがまさか実現するとは思っていなかったが、「RSL-コミュニティ(埼玉)」を履修したからこそ、この機会をいただけたのは確かだ。協力してくださったアスポートの方、機会をくださったRSLの先生方、子どもたち、先輩方。全ての方の温かさを感じ、とても感謝している。この経験をここで終わりにせず、また新たな企画を考え、実現させたい。

まず、学習支援ボランティアを継続する。少なくとも大学生の間はボランティアで関わり続けたいと思っている。意見を取り入れてもらえる、企画をやらせてもらえる環境があるなら最大限に活かし、必要だと感じることは実現させていきたい。今回アスポートでのワークショップをやらせてもらってより強く思うようになった。だから、「ただ勉強を教えるボランティア」からは卒業し、一歩先にいけるようにしたい。また、教室にいてほしいと思われる人になるというのが私の中で密かな目標になっている。「なぜかわからないけどあの人がいるとき教室がいい雰囲気になる」というのは私も感じることがある。そういう人になれるよう頑張ってみたいと思う。

この夏(2019年夏)、私は都内の劇場でインターンシップをした。有名なダンサーがつくるオープニングアクトに出演できるというもので、お金を払って参加するものだった。公共劇場のプログラムで、大してお金がかからないとはいえ、学習教室に来ているような子たちは参加しないのだろうなとふと思った。参加している子たちからは「夏休み、ミュージカルのオーディションにたくさん落ちたけれどこのオープニングアクトには参加できてよかった」という声も多く聞いた。

つまり、習い事やその他の体験活動の経験が豊富な子たちが集まっているということだ。この経験をしたからダンサーになろうとか、何かを得たとかそういうことではなく、「昔やったあの体験が楽しかった」「前は全然興味なかったけど身体動かすの楽しいな」「意外にダンス向いているかも…高校入ったら部活でやってみたいな」というような心の揺れや感動を子ども達には体験してほしいと思っている。

私がこのように考えるのは、子どものときの幅広い経験が人生においてずっと大切になると私自身が感じているからだ。物心ついた頃から、ダンス以外にも自分がやってみたいと思うことはやらせてくれる環境にあった。そのときはあまり面白くなかったと思っていたことも、全て今の自分につながっているなと思う。関係なさそうに見えることが勉強のモチベーションにつながったり、自分の心の支えになったりする。
だから学習支援教室に来ているような子たちにも、いろんな人に出会って、いろんな経験をして、自分の新たな視点、仲間、居場所をつくってほしいと思う。そのような願いがあって、私は将来いろんな人に対して開かれている場、機会をつくりたいと改めて感じた。


現代心理学部 映像身体学科 中根 佑希海
(2018年度履修)