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2022年6月16日(木)SPIRITのInternet Explorerサポート終了について

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私は高校生の時に、JICAでスーダンの平和構築に携わった方の講演を聞いて国際協力の現実と醍醐味を知ったこと、埼玉県のプログラムでアメリカ・ボストンのハーバード大学などで「グローバルリーダー」になるために数日学んだことがきっかけで国際協力に興味を持つようになりました。それまでは、「国内ですら格差や政治など多方面で問題が山積みなのに、海外の問題解決だなんてもってのほか」と思っていましたが、講演で聴いた紛争地の絶望的な環境や、様々な人々と交流したり支え合ったりする楽しさと奥深さを知ったアメリカでの経験等によって、微力でも困っている人を助けたり悲惨な状況を変えたいという思いは、どこにいても変わらないと気づきました。そしてその後、フィリピンのミンダナオ紛争と当地域の可能性に関する話を聞いて以来、フィリピンに行ってみたいという思いを募らせていました。

しかし、国際協力関係に力を入れている第一志望の大学には入学できず、がっかりしながら大学案内と履修要項を眺めていて見つけたのが「RSL-グローバル(フィリピン)」の授業でした。国際協力のフィールドの一つである東南アジアの貧困地域で、地域に少しでも根差した活動ができることが魅力的で、履修を決めました。また、余談にはなりますが、立教大学の他の海外プログラムよりも価格が少し抑えられていたこと、現地でお世話になるアジア・トリニティ大学の長年の活動のおかげで比較的活動時の安全性が確保されていることも履修を後押しする要因になりました。

運よく抽選登録で当選でき、履修が決まったことで改めて立てた私の目標を参加の目的と併せて以下に記載します。本報告書では、「RSL-グローバル(フィリピン)」での経験と学びを、現地のコミュニティワークでできたことを中心にしながら、自分の本科目における目標の達成度も踏まえて振り返り、授業後の変化と履修後の取り組みや現在考えていることについて書いていきたいと考えています。

「RSL-グローバル(フィリピン)」に参加する目的

  1. 国際協力の根本であるフィールドワークを経験する
  2. フィリピンに行き、ミンダナオ紛争をフィリピン人の視点から考える
  3. 異国の貧困地域で、住民の方々が持つ悩みを知る

「RSL-グローバル(フィリピン)」での目標

  1. コミュニティの人々や学生たちとたくさんふれ合い、様々なことを吸収する
  2. 自分のやりたい国際協力とその可能性を考える道標にする
  3. 自分が持つ「当たり前」や先入観といった概念を持たないとともに、それを一度壊す
  4. 国際協力などの目標・目的に関係ないことも含め、すべてのことに積極的に挑戦する

(1)コミュニティワーク~2人の“お母さん”との出会いから学んだこと~

コミュニティワークでの戸惑いと信頼関係

私が参加したコミュニティでは、貧困に悩む地域の人たちと洗剤を作って実際に売買するというビジネスの流れを体感するワークを行いました。7日間という限られた時間の中で、そもそもなぜ洗剤の使用が大切なのかといったところからはじめ、地域の人たちの家計・生活状況を聞いた上で一番適した洗剤や価格等を一緒に考え、洗剤を製造し実際に販売する、というプロセスで行いました。

【写真1】作った洗剤を持ち寄ったペットボトルに詰めるところ時間の関係上、ラベルを張って一緒に売ることはかなわなかったが、フェイスブックの投稿によると、ワークで決めた値段で、サリサリ(小売店)や家先で販売したという。

スムーズに活動を行うため、学生たちで毎日アイスブレイクを最初に行いました。日本人学生の担当日は折り紙、韓国の学生の日はホウセンカ染め(マニキュアのようなもの)、フィリピンの学生の日はフィリピンで大人気のダンスや歌を一緒に行い、私たち学生と地域の人たちが打ち解けながら、図らずも異文化交流をすることができました。

【写真2】アイスブレイクの様子。フィリピンで人気のダンスを踊っている。

その後は、学生一人が一人のコミュニティの“お母さん”(コミュニティワークは母親や孫を持つおばあさんと行ったため、タガログ語でお母さんを意味する “nanay(ナナイ)”と呼んでいました)を担当する形でインタビューなどを行いました。

しかし、洗剤をよりニーズに沿ったものにするために、“お母さん”に、日本人同士の会話では聞かないような年収や困っていることなどを聞く必要があり、ためらってしまった私は言語の壁も相まってなかなかコミュニケーションをとることができませんでした。

その結果、“お母さん”がインタビュー中に現地の言葉でおしゃべりして無関心になってしまい、とても悲しかったし悔しかったです。そこで、コミュニティワークの午後に行われる振り返りで“お母さん”とワークが続けられない理由を考えてみたところ、自分の英語運用能力や勇気だけでなく、現地の“お母さん”にどうワークに沿ったことを話しかければよいのか、年収等のセンシティブな内容を聞いてよいのだろうかといった不安が問題であると思われたため、目標・目的を見直して、自分はどうしたいのか、どのように携わりたいのかを見つめなおしました。

そして、「将来、現地の人たちに根差した形で国際協力に携わりたい」から、「せっかく7日間一緒に過ごさせていただく “お母さん”に、もっといろんなお話を聞きたい、仲良くなりたい」と思った私は、英語が堪能なフィリピンの学生に通訳してもらったり、他のメンバーからアドバイスをもらって筆談を取り入れ、まずは“お母さん”とのコミュニケーションを自信を持って取り組むことができるように工夫しました。

【写真3】”お母さん”にインタビューしているところ。英語を理解できなかったためお母さんが代筆してくれている。

また、“お母さん”に質問するだけではなく、私たちの活動に対するアドバイスやこれまでの人生の話を聞きたいと思い、「今聞かなかったら後で後悔する!」と積極的に話を深めるように心がけました。そうするうちに、夫が亡くなった後、9人の子どもたちの子育てについての苦労話、弁護士や経営者になった子どもたちの支援なくしては生活が成り立たないという話、洪水で“お母さん”の家が水没してしまったため教会に避難し、復興に多くの時間がかかったという話もしてくれるようになりました。

“お母さん”の激動の人生のお話を聞かせてもらった後、“Are you happy?”という私からの質問に対して、「何も不安や危険があるわけではないから、私は幸せよ。」と答えてくれた時の言葉は、コミュニティの多様性と厳しさの中で力強く生きる、自分にも他人にも厳しいが思いやりのある“お母さん”の私に対する人生のアドバイスだったのではないかと感じています。7日間のコミュニティワーク最終日、“お母さん”が「元気でね、また戻ってきてね」と毎日つけていたブレスレットと電話番号を渡してくれた時は、“お母さん”と信頼関係を築けた嬉しさとお別れの悲しさでいっぱいでした。

“お母さん”と築けた信頼関係は、国際協力で様々な人と信頼関係を築いたうえで本当に求められていることを見つけて行動するという、「与えられるだけでなく与える」重要性を実感できたという点で、目標2の「自分のやりたい国際協力とその可能性を考える道標にする」の一つ目の要素を見つけることにつながりました。

誰一人残さないサービスラーニング

私は、担当の“お母さん”以外にも話しかけることを心がけていました。7日間という限られたコミュニティワークで、少しでも現地の“お母さん”達のことを知りたい、仲良くなりたいという思いがあったからです。

実際に活動中、自分の担当ではありませんが、ある“お母さん”と仲良くなることができました。彼女は病気で動き回るワークに参加できず、いつもつまらなそうでしたが、バレンタインデーに愛について語りあうアクティビティを実施した時に彼女とペアを組むことになりました。コミュニティの中でも特に貧しく、これまで家族との死別や貧困、病気など多くの苦労をしてきた彼女は、表情を暗くして話すことが多かったのですが、好きな歌を問うと表情が明るくなり、たくさんの曲を歌って教えてくれました。

この時のことから、彼女はアクティビティに参加したり話したりしたいが、それができなくて寂しいのではないかと考え、私は積極的に話しかけたり、今何をしているか話したり、席をずらしてワークの様子が見えやすいようにしたりと少しずつ彼女がこのワークに参加できるように働きかけました。

そのおかげかはわかりませんが、彼女自身からワークにもっと参加したいと身を乗り出したり、彼女から私に話しかけてくれたりするようになりました。コミュニティワーク最終日、担当の“お母さん”だけでなく、彼女にもメッセージカードを作ってこっそり渡したのですが、私を抱き寄せてあふれんばかりの笑顔で何度もありがとうと言ってくれたときは、最初は寂しそうだった彼女に喜んでもらえて、素敵な笑顔を見ることができて、本当に嬉しかったと同時に、どんな相手にも先入観をなるべく持たず、相手を思いやりながら丁寧に接することがとても大切であるということに気づくことができました。

【写真4】コミュニティワーク2日目にあったバレンタインの企画でたまたま”お母さん”とペアを組むことになり、初めてお話しした時の様子。

このサービスラーニングは、キリスト教の精神に基づいて行われていましたが、私は相互奉仕のようなものであったと考えます。なぜなら、一方通行の奉仕は上下関係やおごりを引き起こしかねませんが、相互奉仕は、互いに学びあう、認め合う、助け合ってこそ成り立つものであり、このサービスラーニングもそのようなものであったからです。そして、この相互奉仕は「先進国の一方的な支援」ではない、草の根にいる人々も国際協力のアクターも求めるあり方ではないかと考えるようになりました。

コミュニティの外に出て

コミュニティワークの最終日に、外に出てお世話になった“お母さん”方のお宅を訪問しました。中華系の私立学校に通う子供と学校に通わず路上で遊ぶ子ども、笑顔で食堂やサリサリ(小売店)を経営する夫婦、ぼろ布をまとい、険しい目つきで私たちについてきた親子、二階建ての家と狭く汚い路地にひしめき合う家とさらにその隙間に廃材の屋根を付けただけの家…。私はそれまで、コミュニティの人たちは共通して貧しいのではないかと思っていましたが、コミュニティ内ですら大きな格差が存在していることを知りました。お邪魔した家は狭くて昼間も暗く、あまり清潔な環境ではありませんでしたが、おうちの人はみな笑顔で、「息子が大学で工学を学んでいるのよ」と嬉しそうに話しており、日々に追われて生きる日本人よりも生き生きしていて、それぞれの人生をそれぞれなりに楽しんでいると気づきました。この体験から、私が「貧困=つらい、苦しい、のでは?」という既成概念をもっていたことに気づき、「どう生きるか、どんな気持ちで生きるかが大事!」であると思うことができ、目標3の「自分が持つ「当たり前」や先入観といった概念を持たない」はできていなかった一方で、「当たり前」や先入観を「一度壊す」ことができました。

(2)チームワーク

私は、英語に精通しているわけでも、K-POPなどの共通の話題があるわけでも、明るい性格でもないため、なかなかチームの話の輪に入れず、学生同士で過ごすときは一人で過ごしてしまいがちでした。特に、私が所属したチームはみんなを率いることが上手なリーダーに頼りがちで、そのことを誰にも相談せず悩んでいました。

やがてリーダーも疲れてチームを放任するようになり、そのとき初めてみんなでどうするか本気で話し合うようになりましたが、私は最初に述べた理由から引け目を感じ、あまり話し合いに参加できませんでした。

しかし、「そんな私でもチームの一員には変わりはないし、チームの危機で何もしないのは無責任だ」と気持ちを切り替え、今までは皆の意見に同意するだけで口にしてこなかった考えや思いも勇気を出して話すようにしました。結果としては、意見の衝突や相次ぐ計画の変更、長い話し合いなどの疲労もあり、私のチームのどの活動も本番は成功したとは言えないものになっていたと思います。

しかし、みんなでやり切ったという思いが強く、失敗したあとも “We did our best, so it’s great!”といえるまでになっていて、それまで感じていた自分の疎外感はほとんど消えていました。

用心深く、なかなか信頼して他の学生に話しかけられなかった私でしたが、そのような引け目から自分の心に壁を作ってしまいがちであったと気づきました。そして、チームでの活動は、誰かひとりがリーダーシップを発揮するものではなく、お互い信頼しあって対等にやっていくことが理想ではないかと思うようになりました。

目標1の「コミュニティの人々や学生たちとたくさんふれ合い、様々なことを吸収する」は、特にチームワークにおいて達成できたとともに、今後も継続する私自身の課題となりました。

(1)事前学習

自己紹介やこれを履修するにあたり自分の目標を明確にするグループワークや発表を行いました。グループでフィリピンの問題や自分の問題意識について話し合ったり、目標を明確にした後は必ずみんなの前で共有し、それらを通じてそれぞれが持つ問題意識や興味を知ることができ、フィリピンで考えたい新たな視点を得ることができました。

(2)事後学習

帰国した数日後に行われた事後学習では、他のコミュニティでの活動や学んだことを少人数で共有した後、目標をどのように達成できたか、どのような課題を残したかについて一人ずつ発表しました。また、同じコミュニティワークのチームの人と日本語でフィードバックする時間がなかったので、お互いの経験を聞き合う機会がありました。その際、インタビューの時に担当のお母さんから子育てや家事をワンオペでこなし疲弊しているという話を聞き、男性と女性の役割分担でジェンダーギャップを感じたという学生もいて、私が聞けなかったことも共有して考えることができました。

この授業全体を通じ、目標③「国際協力など目標・目的に関係ないことも含め、すべてのことに積極的に挑戦する」は、日本およびフィリピンでの活動において達成できたと思うため、今後もこの勇気を忘れずに、様々なことに挑戦していきたいと思います。

「RSL-グローバル(フィリピン)」を経て、主に2つの意識の変化がありました。1点目は言語についてです。これまでは英語を使うためというよりは義務だから、という気持ちで勉強していました。しかし、国際協力には絶対欠かせない能力である以前に、もっとスムーズにいろんな人とコミュニケーションを取りたいと再認識し、英語の勉強を継続しています。また、その国の言葉を知ることで、コミュニケーションがさらに円滑になると実感したため、英語だけでなくほかの言語も大学生のうちに少しずつ習得していきたいと考えています。

2点目は私の考える国際協力の在り方です。「RSL-グローバル(フィリピン)」の一週間後に、バナナプランテーションの調査に同行させていただき、フィリピンのミンダナオ島のダバオ市でフィールドワークを行いました。「RSL-グローバル(フィリピン)」とミンダナオ島でのフィールドワークで現状に困る人々の声を自ら聞いて、現地に根差した、現地の人が求めていることを現地の人主体で一緒に行う国際協力がしたい、と将来像を明確にすることができました。

現在は国際政治のゼミでの平和構築に関する研究やNGOでのインターンなどを通じて、自分のキャリアとしてどのように国際協力に携われるかを模索しています。また、東南アジアの中心かつ多民族国家のシンガポールで、多文化共生と政治を学びたいと思うようになり、留学を目指して準備もしています。その上で、フィールドに行って、国際協力と平和構築に求められていることを見つけるとともに、この授業では聞ききれなかった現地の人の思いや経験等も聞けるようになりたいと思います。

この授業、またフィリピンで得た多くの新しい視点や多様性を忘れず、一つのものごとにはたくさんの面があることを肝に銘じて、これからも学んでいきたいと思います。このような貴重な機会を作ってくださり、ありがとうございました。

【写真5】”お母さん”が最終日にくれたブレスレット:”お母さん”の思いや初心を忘れないように、フィールドや国際協力に関する活動の際には必ずお守りとして身に着けています

法学部国際ビジネス法学科 澤田 ちひろ
(2018年度履修)