2017年度開講のオリンピック・パラリンピック関連科目の紹介①(全カリニュースレターNo.42より)
全学共通カリキュラム
オリンピックマーケティング
担当:沼澤 秀雄 教授
授業の目的
近年のスポーツに関わるビジネスの隆盛によって、スポーツマーケティングという言葉はしばしば使われるようになった。しかし、オリンピックのマーケティングとなると、オリンピックについての基本的な知識と考え方を持っていないと検討できない。また、メディアを利用した放送権料や企業や行政のスポンサードなどによって資金を獲得するといったマーケティングを学ぶことは必ずしもオリンピック・パラリンピックの魅力を伝えることにはならないのではないか。そのような問題提起もあり、この授業では、人生100年時代における自分自身の生き方をどのようにマネジメントしていくかということを説いた『LIFE SHIFT ―100年時代の人生戦略―』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著)の
考えを用いて、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催をきっかけに、仕事を含めた自身の生き方を考える契機とし、人生100年時代を見据えた自己実現のマーケティングを考えることを目標とした。
授業は学外の講師やゲスト・スピーカーが参加しやすいように、また、平日にスポーツ活動を定期的に実施している学生でも受講しやすいように、春学期の土曜日の3限、4限、5限の集中授業とした。池袋キャンパスで開講したにもかかわらず、受講生48名の中には、新座キャンパスの学生や、他大学の学生(f-Campus)、セカンドステージ大学の学生も含まれていた。担当した講師の所属と専門分野は以下の通りである。
コーディネーター
| 沼澤 秀雄
| 立教大学コミュニティ福祉学部教授
| コーチング
|
兼任講師
| 嵯峨 寿
| 筑波大学准教授
| 企業のスポーツ戦略
|
兼任講師
| 石井 昌彦
| 株式会社博報堂
| クリエイター
|
授業内容
第1回~3回授業(4月29日)
・授業の説明(目的、計画、評価)
・「Life Shift」100年時代の人生戦略と授業との関わり
・オリンピックのレガシーについて
・オリンピズムについて
第4回~6回授業(5月13日)
・オリンピックを舞台にしたマーケティングの歴史と展望
・パラリンピックについての歴史と展望
・グループワーク 自分の考える Life Shift
第7回~9回授業(5月27日)
・ゲスト・スピーカーによるマーケティングの実例紹介
【ゲスト・スピーカー】
・栗原 秀文氏(味の素株式会社ビクトリープロジェクト担当者、社会学部1999年卒業)
・冨吉 貴浩氏(株式会社ジェーティービー スポーツビジネス推進室(公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)出向広報担当)、コミュニティ福祉学部2003年
卒業)
・伊藤 亮平氏(株式会社朝日新聞社、ジャパンウォー
ク担当者)
5月27日の授業では、授業内シンポジウムとして、2020年の東京オリンピックに向けて、今まさに第一線でオリンピックのマーケティングを実施している3名のゲスト・スピーカーをお呼びして、本大会への関わりや、東京大会に対する考え方などについてお話いただいた。具体的な事例に基づいたオンタイムな話に受講生たちからたくさんの質問がゲスト・スピーカーに浴びせられた。受講生らは、この授業の大きなテーマであるオリンピック・レガシーや自分自身のLife Shiftにつなげて考える材料を提示してもらえたのではないだろうか。ゲスト・スピーカーの2名が本学卒業生ということもあり、オリンピック・パラリンピックが身近に感じられたシンポジウムとなった。以下はそれぞれの講義内容の抜粋である。
冨吉氏:JOC の最も重要な仕事は代表選手のサポートである。スポンサーや放送権、マーチャタイジングで入ってくる全収入のうち90%を大会運営と代表選手のために使っている。この組織がないと代表選手を派遣することもメダルを取らせることもできない。この仕事を代表選手と同じ気持ちで取り組んでいる。
伊藤氏:朝日新聞と幾つかの企業がスポンサーになって取り組んでいる「ジャパンウォーク」はオリンピアン、パラリンピアンと一緒に歩き、しょうがい者スポーツを楽しみながら、しょうがいのある方もない方も分け隔てなく、ともに暮らす社会を目指すイベントである。企業はこのような活動をすることで社会貢献とオリンピック・レガシーを考えている。日本人は優しさを表に出すのが苦手だが、本大会が終わった後に、「日本は優しい国だった」と言われるようにしたい。
栗原氏:味の素はアミノバイタルという製品をきっかけにスポーツ業界に参入したが、私は野球(スポーツ)から足を洗うためにこの会社に入ったにも関わらず、結局、スポーツの仕事をしたいという気持ちを抑えきれず、自らアイデアを出し、直訴してビクトリープロジェ
クトに関わった。この仕事は選手の成績を上げるために、食事やサプリメントの面からサポートすることで信頼関係が重要になってくる。
第10回~12回授業(6月10日)
公開講演会「オリンピックの魅力を再考する―2020年東京オリンピック・パラリンピックで何ができるか―」
講師:坂田信久(元国士舘大学大学院教授 元日本テレビ放送網スポーツ局次長、元東京ヴェルディ社長)
青木紘二(アフロスポーツ、アフロディーテ、アフロ代表取締役)
6月10日(土)の授業では、日本スポーツ界の「レジェンド」からオリンピック・パラリンピックの話を聞こうという狙いから、ウエルネス研究所主催、全学共通カリキュラム後援の公開講演会「オリンピックの魅力を再考する―2020年東京オリンピック・パラリンピックで何ができるか―」を開催した。当初は、「オリンピックマーケティング」の受講生からテーマや講師を決めてもらうような自主企画を目指していたが、講演会の許可や会場の確保などに期限があったため今回の講師は以前全学共通カリキュラムの授業「オリンピックをめぐる心象風景」、「オリンピック・インパクト」にゲスト・スピーカーとして来校していただいた坂田信久氏と青木紘二氏にお願いした。青木氏は紛争地帯の報道写真や自ら撮影したオリンピックでの印象的な一瞬を切り取った写真を紹介しながら、レンズを通して見る表情から勝負の結果が予想できるといったことや、2020年本大会におけるオフィシャルフォトチームのリーダーとしてカメラマンをどのように動かすかについてお話ししていただいた。本大会を世界に発信するためにはカメラマンにいい仕事をしてもらわなければならない。そのため、配置場所、導線などをどのようにするかが大切な仕事になるという。坂田氏は、1964年の東京オリンピックの年に日本テレビに入社したばかりだったが、スポーツの知識を生かして重要なポストを任されたこと、女子体操のチャスラフスカ選手(チェコスロバキア、現在のチェコ)とのエピソードなど、当時の仕事を振り返りながら、一歩勇気を持って踏み出さないとやりたいことは進まないし実現できないことをメッセージとして残していただいた。当日は受講生やその家族、立教セカンドステージ大学の受講生や校友など80名あまりが参加した。また、シンポジウム終了後に講師の石井昌彦氏より、今日の話を聞いて、自分事として置き換えたら何が見えてくるのか、これからやれることは何かを考えて欲しいという課題が出された。
第13回~15回授業(7月15日)
・学生プレゼンテーション
・まとめ
最終回のプレゼンテーションはコンペティション形式をとり優勝グループを選出した。Life Shift、オリンピック・レガシー、オリンピズム、オリンピック、パラリンピックにおけるマーケティング基礎、講演会の話を聞いた上で、一度自分のLife Shiftを考え、図に落とし込んで見るという課題を持ち寄り、グループワークを行った。グループワークでは、各自がライフシフトを披露。質疑応答を経て、各グループの代表を投票により決定し、その発表者を選んだ。その後、各グループによるプレゼンテーションを行い、決勝に勝ち進む2グループを選出した。2グループは、残りの受講生と講師から質問を受ける形で最終プレゼンテーションを行い、最終的に全員による投票を行い、優勝グループを決定した。
【参考文献】
リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット(2017)『LIFE
SHIFT 100年時代の人生戦略』東洋経済
全カリの記録編集委員会(2001)『立教大学<全カリ>のすべ
て~リベラルアーツの再構築~』東信堂
沼澤秀雄(2017)「授業探訪 オリンピック×学生=レボリュー
ション」大学教育フォーラム22 pp68-75
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授業概要(2017年度シラバスより)
授業の目標
スポーツイベントを成り立たせるマーケティングについて学びながら2020年東京オリンピック・パラリンピックを展望する。
授業の内容
オリンピック・パラリンピックの歴史、スポーツ文化などを理解しながら、巨大スポーツイベントである2020東京オリンピックパラリンピックがどのように運営されていくかについて、企業、広告代理店、組織委員会の構図からオリンピックのマーケティングを考えていきたい。受講生は講義を聴くだけではなく、スポーツイベントの現場に触れ、自らスポーツをマーケティングする思考を養って、オリンピック・パラリンピックを魅力的にしていくアイディアをあげていく。